記事概要
日本企業が台湾進出を準備する際、「台湾で会社名を登録できれば、その名称をブランドとして使っても問題ない」「日本ですでに商標登録しているから、台湾でも同じブランドをそのまま使用できる」と考えてしまうことがあります。しかし、台湾における「会社名」「ブランド名」「商標」は、それぞれ役割も制度も異なります。会社名の登記ができたからといって商標登録ができるとは限らず、日本で取得した商標権がそのまま台湾で保護されるわけでもありません。特に台湾進出では、法人設立、代理店との契約、商品パッケージの制作、ECサイトの開設などを先に進めたあとで商標上の問題が判明すると、ブランド名やパッケージ、広告内容などを変更しなければならない可能性があります。本記事では、日本企業が台湾進出前に知っておきたい「商標・会社名・ブランド名」の違いと、実際によく見られる3つの誤解について整理します。
台湾進出で最初に理解したい「会社名・ブランド名・商標」の違い
台湾進出を検討している日本企業から相談を受けると、「台湾法人の会社名はすでに決まりました」「会社名の事前確認も済んでいるので、この名称で商品も販売する予定です」といった話を聞くことがあります。しかし、この段階で確認しておきたいのが、その名称について台湾で商標調査を行っているかどうかです。台湾における会社名の登記と商標登録は別の制度であり、会社名として登録できたという事実だけで、その名称をブランドとして安全に使用できることまで保証されるわけではありません。
まず整理しておくと、会社名は事業主体である会社そのものを識別するための名称です。台湾で会社を設立する際には、中国語の会社名称を決め、会社名称や営業項目について事前確認を行う手続きがあります。一方、ブランド名は商品やサービスを市場で認識してもらうために企業が使用する名称です。会社の正式名称と消費者向けのブランド名が異なることもありますし、一つの会社が複数のブランドを展開することも珍しくありません。
これに対して、商標は自社の商品やサービスと他社の商品やサービスを区別するための標識であり、一定の要件を満たして登録されることによって、指定した商品やサービスについて法的な権利を得ることができます。つまり、会社名は「どの会社なのか」を示すもの、ブランド名は「市場でどのような名前で認識してもらうか」を示すもの、商標は「そのブランドを法律上どのように保護するか」という問題です。実際のビジネスでは同じ名称が会社名にもブランド名にも使用されることがあるため混同しやすいのですが、制度上はそれぞれ別のものとして考える必要があります。
日本企業がよく間違えるポイント1|台湾で会社名を登録できれば、商標も使える?
最も多い誤解の一つが、「台湾で会社名が登録できたので、その名称を商品やサービスのブランドとして使っても問題ない」という考え方です。台湾で会社を設立する際には会社名称の事前確認を行いますが、この審査と商標登録の審査は別のものです。そのため、希望する会社名が登録できたとしても、同一または類似する名称がすでに第三者によって商標登録されている可能性があります。
たとえば、日本企業が台湾法人として「ABC台湾有限公司」という会社を設立できたとしても、別の企業がすでに「ABC」という商標を、同じまたは類似する商品分野で登録している可能性はあります。この場合、会社名としては登録できても、「ABC」を商品のブランド名として使用することについては別途検討が必要になります。
逆に、台湾ですでに似た会社名が存在しているからといって、必ずしも自社の商標登録ができないというわけでもありません。会社名称と商標では審査基準や制度の目的が異なるためです。そのため、台湾法人を設立する際には、会社名称の確認と商標調査を別々のものとして考えておくことが重要です。
特に、会社名そのものを消費者向けブランドとして使用する予定がある場合には、法人設立だけを先に進めるのではなく、会社名を決める段階で台湾商標の先行調査も並行して行うことをおすすめします。後になってから名称変更が必要になると、会社登記以外にもWebサイト、商品パッケージ、名刺、広告、営業資料など、多くの修正が必要になる可能性があるためです。
日本企業がよく間違えるポイント2|日本で商標登録しているから、台湾でも大丈夫?
次によくあるのが、「このブランドは日本ですでに商標登録しているので、台湾でも同じように使える」という誤解です。日本で正式に商標登録されているブランドであっても、その権利が自動的に台湾まで及ぶわけではありません。商標権は基本的に登録された国や地域の法律に基づいて成立するため、日本で取得した商標権は日本国内での権利であり、台湾で保護を受けたい場合には台湾での商標登録を検討する必要があります。
たとえば、日本で長年販売している商品を台湾市場で初めて展開する場合、日本では問題なく使用してきたブランド名であっても、台湾ではすでに他社が同一または類似する商標を登録している可能性があります。この場合、「日本では10年以上使っている」「日本では有名なブランドである」という事情だけで、台湾でも当然に同じ名称を使えるとは限りません。
特に台湾では、商標登録について先願主義が採用されています。そのため、同一または類似する商標が競合する場合には、原則としてどちらが先に出願しているかが重要になります。台湾進出を具体的に検討し始めた時点で、すでに日本で使用しているブランドが台湾でも問題なく登録・使用できるかを確認しておくことが重要です。
日本企業にとっては、「日本で商標登録済みだから安心」と考えるよりも、「日本で守っているブランドを台湾でもどのように守るか」という視点で考えるほうが現実的です。海外展開では、国内で取得した権利がそのまま海外に広がるわけではないという点を、最初に理解しておく必要があります。
日本企業がよく間違えるポイント3|ブランド名は台湾で販売を始めてから登録すればいい?
三つ目によくあるのが、「台湾で本当に売れるか分からないので、商標は販売開始後に考える」という考え方です。もちろん、すべてのブランドを最初から世界中で登録する必要はありません。進出予定、市場規模、事業計画、予算などを考慮しながら、どの国でどの権利を取得するか優先順位を付ける必要があります。
しかし、台湾進出がすでに具体化しており、代理店との商談が始まっている、商品パッケージを制作している、販売ページを作成しているといった段階であれば、少なくとも商標調査は先に行っておいたほうが安全です。理由は単純で、ブランド名を変更するコストは、事業が進めば進むほど高くなるからです。
まだブランド名を検討している段階で先行商標が見つかったのであれば、別の名称を考えることができます。しかし、すでに台湾向けの商品パッケージを大量に製造し、WebサイトやSNS広告を公開し、展示会へ出展し、代理店が営業活動を開始している段階で問題が判明した場合には、名称の変更だけでは済まないことがあります。パッケージ、広告素材、販売ページ、契約書、販促物など、ブランド名を使用しているものをまとめて修正しなければならない可能性があります。
そのため、商標調査は単に「商標登録できるか」を確認するためだけのものではありません。台湾でそのブランドを使って事業を進めても問題がないかを確認するための、事前のリスクチェックでもあります。台湾市場への参入が具体的になった段階で、商標登録をするかどうかとは別に、まずは先行商標の状況を確認しておくことをおすすめします。
台湾進出では、中国語ブランド名も一緒に確認しておく
日本企業が台湾市場へ進出する場合、日本語や英語のブランド名だけではなく、中国語ブランド名についても注意が必要です。日本本社では英語ブランドだけを正式名称として管理していても、台湾市場では消費者が呼びやすい中国語名称が使われることがあります。代理店が独自に中国語名を付けることもあれば、現地の販売店や消費者の間で自然に別の呼び方が定着することもあります。
最初は単なる愛称のような使われ方であっても、その名称が台湾市場で広く認識されるようになれば、ブランド資産の一部になります。ところが、日本本社が正式な中国語ブランド名を決めていなかったため、代理店ごとに異なる名称が使われていたり、後から商標登録しようとした時点で類似商標が見つかったりすることもあります。
台湾市場を長期的に展開する予定があるのであれば、日本語や英語のブランド名と同じように、中国語名称についても早めに検討しておくことが重要です。このとき、単純に日本語や英語の発音を中国語に置き換えるだけでは十分ではありません。台湾でその名称がどのような意味に受け取られるか、発音しやすいか、消費者にどのような印象を与えるか、そして既存商標との類似性がないかまで確認する必要があります。
台湾法人を設立する前でも、商標登録は検討できる
台湾進出を準備している日本企業から、「まだ台湾法人を設立していないのですが、商標登録は会社設立後でなければできませんか」と聞かれることがあります。しかし、台湾法人がまだないからといって、商標登録まで待つ必要はありません。外国法人であっても台湾商標の申請人になることは可能であり、台湾国内に住所や営業所を持たない外国企業の場合には、台湾の商標代理人を通じて手続きを行うことができます。
そのため、日本本社名義で先に台湾商標を申請し、その後に台湾法人を設立するという進め方も可能です。むしろ、台湾進出の計画が具体化しているのであれば、ブランド調査、商標出願、法人設立、代理店との契約、商品準備を完全に順番どおりに進めるのではなく、必要なものを並行して進めたほうが効率的なケースもあります。
また、台湾に現地法人を設立するのか、支店を設置するのかによっても、商標の名義をどのように考えるかは変わります。そのため、会社設立と商標登録を完全に別々の問題として扱うよりも、「台湾で誰がブランドを保有するのか」という視点を最初から持っておくことが重要です。
会社名とブランド名を同じにする場合でも、商標登録は別に考える
会社名とブランド名を同じにすること自体に問題があるわけではありません。実際、企業名そのものをブランドとして使用している企業は数多くあります。たとえば、会社名が「ABC台湾有限公司」で、商品のブランド名としても「ABC」を使用するというケースです。
この場合、「ABC」という文字列が会社名称の一部として登記されているからといって、それだけでブランドとしての権利が確保されるわけではありません。実際に商品やサービスの出所を示す名称として使用するのであれば、商標登録についても別途検討する必要があります。
ここで重要なのは、会社名と商標のどちらか一方を選ぶという話ではないということです。会社名称には会社名称としての役割があり、商標にはブランドを保護する役割があります。同じ名称を使用する場合であっても、それぞれの目的に応じて必要な手続きを考える必要があります。
商標調査は「同じ名前があるか」だけを見るものではない
台湾進出前の商標調査というと、データベースで同じ名前がないか検索すれば十分だと考える企業もあります。しかし、実際の商標審査では完全に同じ名称だけが問題になるわけではありません。文字の見た目、呼び方、意味、指定する商品やサービスとの関係なども考慮されます。
そのため、「同じ名前は見つからなかった」という理由だけで登録可能性を判断するのは難しい場合があります。特に、日本語、英語、中国語を組み合わせて台湾市場へ展開する場合には、それぞれの名称が台湾でどのように認識されるかも確認する必要があります。
さらに、どの商品・サービスについて商標を取得するかという点も重要です。現在販売している商品だけを見るのではなく、今後台湾でどのような事業を展開する予定なのかまで考えたうえで、指定商品や役務を検討する必要があります。一方で、将来使うか分からない商品・サービスまで必要以上に広く登録すればよいというものでもありません。台湾では、登録後に一定期間使用されていない商標について取消しが問題となる可能性もあるため、現在の事業と今後の計画に合わせて現実的な範囲を設計することが重要です。
台湾進出前に確認しておきたいブランド管理のポイント
台湾進出を準備している日本企業であれば、まず日本で使用しているブランド名について、台湾に同一または類似する先行商標がないか確認しておくとよいでしょう。ロゴも重要なブランド要素であれば、文字商標だけでなくロゴについてもどのように保護するかを検討します。また、台湾向けに中国語ブランド名を使用する場合には、その名称についても商標調査を行います。
台湾法人を設立する予定がある場合には、会社名とブランド名を同じにするのか、それとも別々にするのかを整理しておく必要があります。代理店を通じて台湾で販売する場合には、台湾商標を誰の名義で保有するのかについても契約前に確認しておくことが重要です。
ブランド名、会社名、代理店契約、商標登録は、それぞれ別のテーマに見えます。しかし、台湾進出の実務ではすべてつながっています。どれか一つだけを後から考えるのではなく、進出の初期段階で全体を整理しておくことで、後から発生する余計な変更やトラブルを減らすことができます。
まとめ|台湾進出では、会社名を決めるときに商標も一緒に確認する
台湾進出を準備すると、会社設立、銀行口座、輸入手続き、代理店探し、商品パッケージ、マーケティングなど、短期間で多くのことを決めなければなりません。そのなかで商標は、「商品を販売する直前にやればいい」「会社名が決まってから考えればいい」と後回しにされやすい項目です。
しかし、ブランド名称は会社名、商品名、パッケージ、Webサイト、SNS、広告、展示会、代理店の営業資料など、事業の多くの部分につながっています。一度市場に出した名称を後から変更するのは簡単ではありません。
そのため、台湾進出では「会社名」「ブランド名」「商標」を同じものとして考えないことが重要です。会社名称が登録できたからといって、商標として安全に使用できるとは限りません。また、日本で商標登録しているからといって、台湾で自動的に保護されるわけでもありません。さらに、ブランドを市場に出してから商標を確認すると、問題が見つかった際の変更コストが大きくなる可能性があります。
台湾進出を具体的に検討し始めたのであれば、法人設立や代理店探しと同じタイミングで、「このブランド名は台湾で使えるのか」を一度確認しておくことをおすすめします。
知築智慧產權顧問では、日本企業の台湾進出にあたり、台湾商標の事前調査、商標登録、会社名・ブランド名の確認、中国語ブランド名の商標調査、代理店とのブランド管理などについてサポートしています。まだ台湾法人を設立していない段階でも、日本本社名義で台湾商標を検討することは可能です。
「台湾進出を検討しているが、今のブランド名をそのまま使えるか分からない」「会社名とブランド名を同じにしても問題ないか確認したい」「台湾向けの中国語ブランド名も保護したい」といった場合には、商品を台湾で販売し始める前に一度整理しておくと、その後の進出準備も進めやすくなります。
台湾で会社を設立することは、事業を始めるための準備です。一方で、台湾でブランドを守れる状態にしておくことは、その事業を長く続けるための準備です。台湾市場への進出を考えるのであれば、この二つを最初から一緒に考えておくことが大切です。
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